Question

実は学生の時、アルバイトで病院のお風呂と思われる場所を解体する作業を1日だけ行いました。2時間ぐらい壁に付いたアスベストと思われる物質を削岩機みたいな機械で除去する作業をしました。あまりにもまずいと思ったので、雇い主にマスクの支給を要求したところやっと買いに行ってくれ、しばらくしたあと装着し作業を続行しました。粉じんはかなり吸い込んだ記憶があります(咳き込むほどではありませんでした)。①もし壁についた物質がアスベストであるならばこの程度の作業で中皮腫などの健康被害がおこる可能性がありますでしょうか? ②もし可能性がある場合、検査で発見は可能でしょうか? 会社の健康診断で胸部レントゲンで問題があったことはありません。

Answer

大変難しい質問です。

第一に、石綿(アスベスト)吸入の量や濃度を推定する事自体が、前例や測定例がなく困難で答えられない場合や、濃度の時間的推移が不明で答えにくい場合があります。石綿(アスベスト)肺は、概ね10年以上の職業性石綿(アスベスト)曝露を受けた人にのみ発症することです。悪性中皮腫、石綿肺ガンや胸膜肥厚斑等は低濃度の短期曝露で発症が知られています。

第二には、現在の一般大気中の石綿(アスベスト)濃度をバックグラウンドとして考える事です。日本の都市では現在0.2~0.3f/L以下の大気中石綿(アスベスト)濃度の環境が多いと思います。残念ながら私たちは毎日息を吸う中で、石綿(アスベスト)をさほど危険と思わずに吸入してきています。成人は1分間に5Lの大気を吸入するので、1年に吸入する石綿本数=(0.2~0.3)[本/L]×5[L/分]×60[分]×24[時間]×365[日]=(525,600~788,400)[本]となります。(数式中の[ ]内は単位)。1日に1500~2000本以上、1年で50万本から80万本の石綿(アスベスト)繊維を日本人は吸入しているわけです。もしあなたが石綿製品の側で石綿(アスベスト)繊維が500本/Lの環境に1時間いたとすると、吸入した石綿本数=500[本/L]×5[L/分]×60[分]=150,000[本](15万本)となります。大気中の石綿(アスベスト)の3ヶ月を1時間で吸入したわけです。人生が仮に70年とすると、大気中から吸入する石綿(アスベスト)の量が、3500万本から3515万本に増えたともいえます。この程度なら心配ないという考え方もあると思いますが、皆さんはいかがでしょうか? 肺ガンや中皮腫には閾値はないという考え方もあります。吸入した濃度と時間に応じて発病のリスクは増加するわけで、曝露が数日や高濃度曝露になれば1日でも許容できないリスクと感じる方が増加するのが当然です。健康リスクを高めたことは間違いなく、この曝露が原因での発症もありえるでしょう。避けられたリスクを高め、許容できないという方もいるでしょう。リスクをどの程度から許容するのかは、大変難しい問題です。②潜伏期がありますので、吸入してから20年や30年以内に病気がおこる事は稀です。仮に濃度が高くても、吸入30年以降からの健診が必要でそれ以前の健診はあまり意味がありません。